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第九章前編 溺死の気配

Author: 神夜 紗希
last update Last Updated: 2026-01-07 13:34:19

厚塗りオバケから全力で逃げた2人は、

非常口があると信じて向かってきた、薄暗い通路で息を整えていた。

美咲の呼吸はまだ荒く、

胸の奥がドクドクと痛いほど脈打つ。

美咲はブーツで走り回った為、足も少し痛かった。

悠はトイレを指差し、美咲に声を掛ける。

「俺、トイレ行ってくるけど、美咲大丈夫か?

ここの椅子で座って休んでて!絶対すぐ戻る!」

「…分かった。ちょっと、さすがに疲れたから、座って待ってるね。…早く戻って来てね!」

「OK!」

悠はダッシュで駆け込み、扉が閉まる音が響く。

美咲はそばの自販機で水を買い、トイレ前の椅子に腰を下ろした。

「……はぁ〜……」

(こんなに、真剣に走ったの、学生時代の文化祭以来だ…)

日頃から趣味で登山や神社仏閣を歩いていた美咲は、多少足腰には自信があったが、

こんな形で助かる事になるとは思わなかった。

少しでも体を休めようと、美咲は目を閉じた。

足の裏が少しズキズキするのを感じる。

(靴で来れば良かった…)

そんな事を薄ぼんやりと考えながらも、脳裏に浮かぶのは、先程までの出来事だった。

這いずり女、鏡迷路、内臓男、厚塗りの女…

そして──

あの“柳瀬の影”。

今さっき、廊下の奥に柳瀬の影が見えた瞬間に感じた、全身を包むような、深い場所からの視線…

美咲は思い出して、ブルっと身震いした。

「……なんで私ばっかり……

神様……私、なんかしました……?」

冷たい水をひとくち飲み、

ゆっくり目を開けた。

──ガチャッ。

悠がスッキリした顔で出てきた。

「ふーー!!スッキリした!!

あ、俺も水買う!久しぶりに全力疾走して喉乾いた!」

悠は美咲と同じ水を買い、

キャップを開けてそのまま一気飲み。

「悠…冷たいの一気に飲んだら……

またお腹痛くなるよ?」

「…!確かに。喉カラカラだったから一気飲みしちゃったよ。….まぁ今全部出したからしばらくは平気っしょ!」

「その自信どこから来てるのよ……」

悠はペットボトルをぶらぶら揺らしながら聞いた。

「で、美咲。非常口こっちで合ってるの?」

「うん、西口って聞いたから……

確かこの方向──」

「いや、美咲。

ここ東口だよ。」

「……え?!うそ?!」

「子供の頃、ターボーと館内の集合場所を

西口→東口→西口→東口

ってローテしてたから覚えてるんだよ。」

「何そのルーティン!!…でもおかげで間違いに気付けたか
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